マルアスは砂を駆ける。
 まるで抜け殻のように軽い妹を抱えて。

 まだ息がある。
 まだ。

 小さい息を感じながらマルアスはただひたすら走り、医者の元に行く。
 ティエはあの男をかばった。なぜかばったのか、わかりたくなかった。

 ―あの男の命が惜しかったのだろうか。それとも俺のためだったのか。

 少しでも考えたくなかった。
 ただ助かって欲しいと。
 男を殺した俺にそんなこと思う資格などないことはわかっている。男を殺したところを見られ、他の連中も撃った。

 なおさら、ない。

 何もない。でもただ助かって欲しいと。

 何を考えていいか。混乱していると、奥の方でつぶやく俺の声が聞こえる。
 だが後悔、畏怖の念はない。

 妹のために。
 誰よりも愛しい妹のためにやった。

 それだけが支えだ。

 たとえここで賞金首になろうと。
 それだけが支え。






 ティエは助かった。
 ―ティエは。

 それは妹のティエではなく、子供のティエが、だ。

 妹はしばらく植物人間状態になったが、何とか生きていた。

 だが腹の子が突き破ると同時に死んだ。

 子供というのは不思議なものだ。母が倒れても、眠っていても、もがいて生まれようとする。
 泣き叫びながら小さな体を丸めて、ふにゃふにゃの指で何かを求める。

 まだ見えてない目で俺を見る。

 ティエ。

 また生まれて共にいてくれると、そう思っていいのだろうか。こんな都合のいい解釈をしていいのだろうか。
 でも。―それを裏付けるようにティエは妹と同じ姿に育っていく。

 それが恐ろしかった。





 きらりと光る晴天。砂を纏いながら細い姿が駆け巡る。

「兄さん」

 幻だろうか。

「兄さん」

 微笑む、その姿は青く溶けていく。

「あなたが望むなら、私はずっといるわ。兄さん」

 ブルーヘブン。
 そこに天国があると言うのなら。お前が天国だと嘯くのなら。

 妹を。ティエを。ティエを、望もう。
 ティエのいる天国全てを望もう。






「いってらっしゃい、おじさん」

 あの時の子供は、すでに十になっていた。ますます似てくるお前を、俺は手放せない。
 だから。天国を手に入れて、お前はティエと一つに。
 もうお前に妹の幻影は見たくない。お前はティエだが、ティエではない・・・。

 俺はブルーヘブンを追う。

 どうしようもなくなる、前に。


 この子を、愛しいと抱き上げてしまう前に。






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