白い朝が大好きだ。瞼の隙間からこっそり入ってきてオレンジ色に染めていく。とても暖かくて、でもちょっとちかちかして痛くてくすぐったい。そのままころん、と転がると朝日でふかふかになった布団と枕が甘い匂いが僕をなでる。

 気持ちよくてもっと寝てたいけど、僕には仕事がある。僕だけにしかできないこと。

 急がなきゃ、急がなきゃ。

 僕は何度も僕に言い聞かせながらパジャマを脱いで、昨日干しておいた洋服に手を通す。時々ひっかかっていらいらすることもあるけど、今日はするっと早く着ることができた。

 そして赤いマント。僕のお気に入り。このマントには僕の大切なものが詰まってる。

 僕を守ってくれる大切なピストルもここに入ってる。ちょっと重たいけど、もう慣れちゃった。今はこの重たさがないと落ち着かない。それほど、僕は「シーフラフネス」になったんだな、と思うと少し胸がひりひりする。

 遠くに浮かび上がった影を急いで消すように顔を洗って髪をとかす。・・・・何度も何度もとかしても跳ね上がるから僕はこの髪が嫌い。急いでるのに、と抑えても耳みたいにぴょこっと顔を出す。

 そういやあ昔、ペットを飼っててな・・それを思い出す・・・と言いながらいっきーはよくこの髪をいじるけど、僕は動物じゃないもん。

 だから一生懸命とかすのに全く直らない。

 もういいもん、僕は急いでるんだから。僕は髪にしかりながら部屋を飛び出す。

 誰もいない、白い廊下。朝日がうーんと遠くまで照らしてる。

 今日は一体何が待ってるんだろう。僕はどこまでブルーヘブンに近づけるんだろう。

 白い朝が来るたびに思った。

 そして、僕はいっきーを起こしに行く。それが仕事。

 いっきー、早く起きて!
 いつまで寝てるの!?
 また女の人、連れ込んで・・・・・。

 言いながら手が勝手に銃を持っていて、いっきーはいつも冷や汗。

 おかしくて、おかしくて、楽しくて。
 すごく、嬉しかった。

 でも、それはもう「過去」になってしまった。
 僕がどんなに急いでも、どんなに怒っても、どんなに・・・どんなに。

 どんなに僕が泣いても、起きてくれない。



 僕は扉の前に立ったまま、声を出さないように泣いた。
 いつもだったら宿屋にいる僕たちだけど、今は毎日キシュリー姉ちゃんの家にいる。

 ブルーヘブンを追う旅はもう終わってしまった。

 僕は青い鳥を憎み、撃ち殺した。

 僕は一人が怖かった。いつも誰かに置いて行かれる寂しさは、誰にも伝わらない。みんな遠くに行っちゃう。僕がどんなに手を伸ばしても。

 だけどブルーヘブンは僕に来るように、誘ってくれた。

 嬉しかったよ、ブルーヘブン。

 でも僕はいっきーと出会って、もっと嬉しかった。

 いっきーは変態だしお金も勝手に持って行っちゃうし、僕のことすぐガキ扱いするし、それにチビって毎日言うし、・・・・えっと、他には・・・・。

 ブルーヘブンは家族になってくれるって言ってくれたけど、いっきーが家族になってくれたような・・・気がした。

 でもそれは僕だけで、僕のわがままで・・・・・僕があんまりにも勝手に思っちゃったから、ブルーヘブンはいっきーを食べて、僕を連れて行こうとした。

 それは違う、違うの。

 僕のわがままでいっきーはブルーヘブンに食べられちゃって、それを僕が殺して・・・ブルーヘブンは寂しくてそのまま連れて行っちゃった。

 僕はその気持ちがよくわかる。寂しいよ、一人は。

 だけどそれ以上はわかっちゃだめなんだ。

 いっきーには本当の家族がいて、今はその家族も一人にした。僕のせいで。

 僕はみんなを一人にした。

 ごめんなさい、と言う度に僕はキシュリー姉ちゃんに殴られた。それは当然のことで、何も言われないよりは返って楽だった。たくさん痣ができたけど、それでよかったし・・それでみんなが少しでもつらくないなら、僕はそれでいい。

 でも起きないいっきーは誰を殴ればいいんだろう?進むことのできない、この人は。

 僕は涙を乱暴に拭くと、扉を開けた。



 カーテンが重たく窓を閉じている。僕が開けて、ようやくこの部屋に朝が来る。白い朝日をたくさん入れてもいっきーは寝返りも打たない。ただ呼吸しているだけ。

 白い光はいっきーの頬を照らす。何にも食べてないから、影ができてる。頬骨が出っ張ってて何歳も老けちゃったみたい、って言っても起きない。

「・・・・・・・おはよう」

 僕はいっきーが眠るベットの側にしゃがんで顔を眺める。もちろん、起きない。
 色々なことを試したけど、起きることはなかった。
 当たり前だよ。ブルーヘブンが連れて行っちゃったんだから。
 そう思っていても、僕は今日は起きてくれるかも・・と色々なことを試す。

「・・・・いっきー・・・・あ、あのね・・・。・・・僕、昨日チョコレート買ってきたんだ。9th姉ちゃんにおいしいお店、教えてもらったから行ってきたんだよ。・・・えっとね・・・・」

 言葉が続かないよ。何でもいいから返事してよ。
 僕はマントにそっと入れて置いたチョコレートの包みを出す。思い出したようにチョコレートの甘い匂いが朝の匂いと混じって、暖かい気持ちになる。

「・・・・・すごく色々な形の、あったよ。最近はね、ビー玉みたいのもあってすごくきれいでね・・・・。ちょっと高いけど、僕がんばってデザートシーブス倒して・・・それでね・・・・」

 胸が膨らんでとっても痛い。頭が熱くて目がひりひりするよ。喉が、何度も引きつった。でも僕は泣いちゃだめ。泣いていいのは、キシュリー姉ちゃんだけだよ。

「すっごく甘いんだ・・・えっとね・・・。・・・・いっきー、甘いの好きだよね。だからうんと、甘いのにしたんだ・・・・だから」

 お願いだから、起きて。

 いっきーの好きなもの、いっぱい買ってきたから、起きてよ。

「・・・・お酒、入ってるのもあって、それもすごく甘くておいしいんだよ・・・・僕はそれ、食べるとふらふらしちゃうけど・・・・。・・・・9th姉ちゃんも、5thおじちゃんも・・・・・・おいしいって・・・・すごく・・・・・」

 柔らかい、いっきーの黒い髪。ちょっとしか経ってないはずなのに少し伸びてる。僕がどんなに触っても、今は怒らない(前は嫌がってた。ぼさぼさになるって言って。・・最初からぼさぼさなのに)。

 頬も、かさかさだけどあったかい。
 手だって。

 でも起きない。目はずっと閉じたまま。鼻も動かさない。

 チョコレートを隣に置いて、僕は食べてくれるように祈ったけど、その前に泣いてしまったから何も考えることはできなかった。

 もしこのおいしいチョコレートで起きてくれたら、僕はやっぱり泣くと思う。

 僕の中の僕が言うんだ。

 いっきーはブルーヘブンを探すために僕といただけ。

 だから、起きたら。
 
 僕は家族に置いていかれ、ブルーヘブンに出会い、追いかける旅に出た。そこでいっきーと出会って、今度は二人で旅をした。

 行き着いた先にブルーヘブンはいて、いっきーを食べてしまった。

 そして今、こうして僕は毎日眠るいっきーとしゃべる。

 この先、僕はいっきーを目覚めさせるために旅をする。終わりの見えない、最後のラインがどこにあるかわからない、目的のない旅に。ブルーヘブンをまた追う、旅に。

 ずっと、ずっと旅をする。いっきーと一緒に。目覚めない、いっきーと。

 それまではずっと一緒。

 だからみんな、目覚めてこの旅が終わったら。


 本当に、本当に、最後。


 そうしたら、僕はどこまで「戻る」ことができるんだろう。

 家族はもういない(そう言い聞かせてる)。いっきーは旅をする理由をなくし、僕も目的がなくなってしまう。そうしたら・・・。


 僕と、僕といっきーの旅が、終わる。


 きっと、僕はもういっきーと一緒にいれないだろう。

 だから、今は寝ていてもいいから、一緒にいたい。僕が勝手に思ってるだけだけど、家族だから。

「チョコ・・・・・キシュリー姉ちゃんの分ももちろん買ったんだよ。ピンクのかわいいハート型・・・キシュリー姉ちゃんにぴったりだよね」

 姉貴はやたらピンクとか赤が好きだからな・・・と声が聞こえた気がして、僕は少しだけ笑った。

「じゃあ、僕行くね」

 チョコレートをそのままにして僕は甘い匂いと一緒に外に出た。

 キシュリー姉ちゃんは忙しい人だから、いつもいない。いないことに少しほっとしてるけど、今日はいて欲しいと思ってる。

 チョコレートは甘くてみんな笑ってくれるわ、とお店の人の言葉を信じて。

 今はキシュリー姉ちゃんが笑ってくれるなら、それが一番いいと僕は自分に買ったチョコを一つ食べた。

 青い空を切り取ったみたいな青いビー玉のようなチョコレートは思ったよりも柔らかく、すぐに口の中で溶けてしまったけど、ちっとも甘くなかった。すごくしょっぱくて苦い、寂しい味がした。


おわり

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