14・ワスレモノ

 けだるい目覚め。タイザー事件で神経をすり減らされたせいだ。ただでさえ悪い寝起きが一層悪い。

 全身が鎖で縛り付けられたように重く沈む。瞼すら重い。夢のような現に、それでもゆっくり体を動かし目を開かせる。白い太陽が憎い。

 それにしても今日は暖かい日なのだろうか、やけにベッドの中が心地よい。イツキはごろりと頭を返し・・・


「・・・・・・・・・・は?」


 茶色い毛がもぞもぞ動いた。一瞬犬かと思ったが、

「・・・タイザー?」

「むう〜・・・・・・」




          Heaven?


 イツキの頭が完全に起きた。こんなに早く目も体も頭も覚めたのは初めてかもしれない。しかし、視界はまだぼやけているのだろうか。目を擦り、凝視する。

 ・・・・やはり、いる。同じベッドの中に。

「・・・・・・・・えっと?」

 とりあえず確認。うん、服は着てる。よかったよかった。
 乾いた笑いを浮かべながら布団を戻す。

「さすがの俺も、ガキはなあ〜・・・・・・はっはっは」

 もう一度笑うと、ゆっくり隣を見た。
 やはりそこにいるのはタイザーだ。小さな体やハムスターのような顔立ち、茶色い髪の毛が綿毛のようにほわほわと枕を包む。元よりくせの強い髪だが、寝ぐせによってさらには跳ねている・・・・どう考えても、タイザーに違いない。

 昨夜、一体何があったのだろう?タイザーが見つかった後、普通に風呂に入ってそれぞれの部屋に戻ったはずだ。その後酒は飲んでないので、酔っぱらった勢いで・・・などという面白いことはしてない・・と思いたい。そこまで泥酔するほど飲んだことは今までに・・・ないとは言い切れないが、とりあえず昨夜はない。確実に。

 一頻り考え、腕を組んで辺りを見る。そこにはイツキの持ち物しか転がっていないということは、ここはイツキが泊まっている部屋で合っているだろう。だとすると、間違えたのはタイザーだろうか。

「今まで、知らない女がいたってのはそれなりにあったが・・・・ガキがいる、っつーのは初めてだぞ・・・・・」
「むー・・・・・・・」

 小さな体が寝返りを打った。枕にこすり付けるように頭を振ると、大きな瞳が半分だけ開いた。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」

 イツキは思わずタイザーの瞳を覗き込んでしまった。起きたての茶色い瞳は焦点が合っていない。

「・・・・・・タイザー?」
「・・・・・・おはよお・・・・・」

 とろんとした目をぼんやりイツキに向ける。寝ボケているらしく、呂律が回らない。

「あ、ああ。おはよう・・・」
「・・・・・・う〜・・・・」

 ばたばたと暴れるように寝返りを何度か打つと、タイザーはようやくベッドから起き上がった。それでもまだぼんやりとしている。

「・・・・・いっきー・・・・・」
「はい」
「・・・・・・・・・いっきー?」
「はい?」

 タイザーの大きな瞳が完全に開かれ、きょとんと二三度瞬きを繰り返した。ようやく状況に気づいたようだ。みるみる顔が赤く染まっていく。

「・・・・・・・・・っ」

 タイザーは飛びのいた。ベッドのスプリングが激しく軋み、その勢いに乗じて小さな体は隅っこに固まった。

「どうしていっきーがここにいるんだよ!!何で!?隣!?」
「そ、そりゃあこっちの台詞だ!そもそもここは俺の部屋!」
「え?」

 小さな頭が辺りを見回し、こくりと首をかしげる。

「・・・・・・・誘拐?」
「んなはずねーだろっ。誰がガキなんか誘拐するかっ」
「ガキは余分だよ!いつも言ってるでしょ!じゃあなんでここにいるんだよ」
「だから〜知らないっつーの!お前が寝ぼけてここに来たんだろ?」
「それこそ、そんなはずないでしょ!」
「じゃあ夜這いか!俺の体目当てだったのか!?最近のガキは怖えーなあ」
「馬鹿!変態!気持ち悪いポーズしないで!すぐそっちに持ってくんだから!もう!撃つよ・・・あれ」

 ふうふうと毛を逆立てて怒り、ぺたぺたと体中を探る。探るうちにタイザーの顔色が青ざめ、怒りが抜けていく。

「僕のルガーP90・・・・・って、ああ!!た、大変だよ、いっきー!僕の銃、マントごと捕られたままだ・・・・」
「何だって?」
「こうしちゃいられないよ。早く行かなきゃ!」

 怒りはどこへやら、ベッドから勢いよく足を投げ出し、ぴんっと立ち上がり・・・ひっくり返った。バナナを踏んで転んだらこうなるかもしれない。羽毛の匂いが吹きあがり、タイザーはぽかんと天井を見つめた。

「うう・・・・ふらふらするよう・・・・」

 その姿を呆れながらイツキは眺めた。ベッドに寝るように仰向けに倒れたタイザーの顔を覗き込むと彼女は頭を抱えて体を丸めていた。昨日の余韻なのだろう。

「お前な〜・・・一応けが人なんだぞ?突発的な行動するな」
「う〜・・・・・・」
「頭にあれだけコブがあったんだ。無理に動くと危ないぞ。まー、ちゃんと動けるまでは時間がかかるな」
「え〜でも・・・・あれは僕の武器・・・・・」
「あきらめろ」
「やだよ!僕の大切な武器なんだよ・・・・。しかも、マントには路銀も入ってたし」

 起き上がれないのか、そのまま首を振り、ますます青ざめた顔でイツキに懇願した。イツキはタイザーを見つめると、目を泳がせる。タイザーの姿に胸を打たれたわけではなく、重要なのはマントの中身。

「なんだって?金もとられたのか!?」

 ぐっと、イツキの顔が近づく。タイザーは驚いてイツキの顔を押しのけた。

「なんなんだよ!」
「ああ・・・・昨日の酒代、まだ払ってねえんだよ」
「・・・・・・踏み倒したの?」
「まさか。ツケにしてもらった」
「・・・・・・一銭も持ってなかったの?う〜最悪〜・・・・」じっとりと半眼でにらんだ。
「しょうがねえなあ・・・・・。タイザー、場所覚えてねえのか?」
「うん・・・」
「そうか・・・・。んー、あれだけ短時間で起きたんだ。近いだろうな」

 イツキは立ち上がり、机に放置してあった煙草をポケットに突っ込んだ。タイザーもむくりと起き上り、振りかえる。

「いっきー、どこ行くの?」
「だから、そのアジト。適当に探してくるわ」
「僕も・・・」
「だめだ」

 イツキが軽くつついただけで、タイザーはまたベッドに戻った。小さな体にあれだけのことをされたのだ、そう簡単に回復するものでもない。そのことにタイザーは気づいていないらしい。めでたいというより、無茶というか、とにかく危うい娘だ。

「んな体で出れるはずねえだろ?おとなしくしてろ」
「やだよ!」
「わがまま言うんじゃありません〜」
「やだあ!」

 もう一度起き上がり、イツキの裾を握り締める。

「僕も行く!」
「だからなあ・・・・・・」

 ぼさぼさの頭をかき回し、タイザーの手を引き剥がす。

「まだ連中がいるかも知れないんだぞ?お前、ばっちり面見られてるんだから捕まっちまう。俺はこー見えても一応それなりに心配して言ってやって・・・」

 タイザーは無言で首を横に振る。

「心配、ありがと。でも・・・・・全滅だよ」
「全・・・滅?」

 今度は小さく、縦に頷く。気丈な瞳から生気が抜け、小さな頭は力なく頭を垂れた。心なしか肩も震えている。

「マルアスが、全部・・・・」

 散らばる肉塊、血だまり、男たちの手。この世の地獄がそこに集結していた。

「・・・・う・・・・」
「う?」

 タイザーは口を塞ぐと、ベッドから飛び降りた。今度は倒れなかったが、体はふらついた。

「お、おい・・・・」
「〜〜〜〜!!!」

 イツキの手をすり抜け、猛スピードで部屋の外に出て行った。ドアが壊れそうなほど勢いよくバウンドする。奥で別の扉が開いた音がした。

「・・・・・・・・」

 ぼりぼり、ともう二三度頭をかく。大体予想はついた。

 昨日の出来事を、タイザーは詳しく話したがらなかった。教えてもらったのは、ブルーヘブンという薬。それらを売買する集団がいたということ。あとは、マルアスがかいつまんだ言い方をした台詞のみの情報しかない。

 辛かったのだろう。まだ少女である心も体も、破裂しそうだっただろうに。よく精神を保てた、と思う。それでも思い出そうとしただけでトイレに駆け込むぐらいだ。

 おそらくだが、昨夜もそうだったに違いない。もしくは不安で眠れずにもぐりこんだが・・・どちらにしても、気丈なタイザーも弱り切っていることには違いない。

 しょうがねえな、とイツキはベットに腰掛けた。

 ぼおっと窓の外を見る。心地よい風が吹き、イツキの頬を冷たく撫でる。体温を奪うように。

「・・・・・・やれやれ」

 どたどたどた、と床が揺れた。

「いっきー!」
「なんだ?」

 イツキの姿を見るなり、タイザーはドアの付近に立ち止まって胸を撫で下ろした。

「よかった・・・・・もう行っちゃったのかと思った」

 しまった、その手があったな・・・・と心の中で舌打ちをしながら、鼻でため息をついた。

「さ!行こうよ!ほら、僕こんなに元気だし!」

 腰に手を当てて思い切り胸をそらす。イツキはベットから立ち上がり、タイザーの傍に寄って頭を軽く触れるように叩いた。茶色い髪がぴょこんと跳ねる。

「そういう態度は、胸が出てからやるんだな」
「う、うるさい!!」

 タイザーを通り越しながらイツキは首をかしげる。

「最近のガキは発育いいって聞いたんだがな〜」
「ど、どういう意味だよ!」
「まんまです」
「む・・・・・・」

 一瞬頬を膨らませたが、イツキはだらだらと先に行ってしまうのでしょうがなく無言で付いて行った。もちろん、はぐれないようにイツキの服を握りしめながら。






 砂漠の街は乾いた晴天に包まれていたが、人々は砂嵐のようにざわめいていた。

「何かあったのかなあ?」
「さあな」

 二人は自然と人だかりの方へ足を運ばせる。

 街の中央・・・主に集う広場は人で溢れていた。人だらけでよく見えなかったが、皆快い顔はしてなかった。むしろ心配で、怖くて仕方がない、というように青い顔をして互いにささやきあっていた。

「怖いわね・・・・またマルアスですって・・・」
「最近よく聞くわね・・・・・」
「警備軍はどうしてるのかしら」
「あの家の人・・・全員殺されたらしいわよ」
「しかもサブマシンガン・・・蜂の巣状態」

 いかにも世間話が好きそうな中年の女たちがしきりに情報を言い合う。おかげで誰に聞くでもなく、二人は状況が把握できた。

「昨日のことみてえだな」
「うん・・・・・」

 人の波を縫うようにするする抜ける。タイザーはまだ不安のようで、イツキの服を握りしめたままだ。

「どうやら、場所はすぐわかりそうだな」
「そうだね・・・・」
「ただ、お前の武器はねえかもしんねえなあ・・・・」
「え?どうして??」
「考えてもみろよ。こーんな混乱状態だぜ?大方、警備軍の連中が武器を回収しているだろうよ」
「やだよ!僕の武器っ!取り返そうよ!!」

 人々の雑音に負けないようにタイザーはこれでもかと大声で叫んだ。見開かれた瞳は今にも泣きそうに潤み、顔はますます蒼白なものとなる。イツキは引きつった笑みを浮かべながら「わかったわかった」とコブだらけの頭を撫でて何とかあやしてみた。

「んー・・・ただな〜取り返すっつっても・・・警備軍の連中のとこにいくしかねえだろう・・・」
「じゃあ、そこに行こうよ」
「あのなあ」

 げんなりと頭を下げて、軽く息を吐く。

「んなことしてみろよ。一発で俺たち捕まるぞ」
「僕たちはマルアスじゃないよ?」
「・・・・・お前、やっぱりガキだな・・・」

 ようやく人だかりが減り、タイザーは小回りのきく体で先回りし、イツキの前に立ちふさがった。

「どういうことだよ!」
「いいか?俺たちがマルアスじゃねえってのは多分認められる。だがな・・・・・あの場にいたとなると話は違う。事情聴取やら受ける前に、とっ捕まって尋問だ」
「僕たちは違うのに?」
「お前の武器がそこに残ってるのが問題だな・・・あの場にいて生き残れて、しかも薬が絡んで・・・・・・お」
「お?」
「運がよけりゃあ、9thがいるかもな・・・麻薬絡みなら警備軍よりドラッグコントロールが出しゃばってくるだろうし・・・」
「あ!じゃあもしかしてこっそり僕のルガー貰えるかも!」
「かもな。よけりゃあ、の話しだし、あいつにこの話が通じるか・・・・・・」

 イツキは苦い表情を浮かべ、間違われた数々を思い出す。どうやらタイザーの記憶には残ってないようだが。どこまでもめでたい構造の記憶である。

「俺はともかく、お前なら大丈夫かもな・・・」
「いっきー、変態だもんね!やっぱり日頃の行いだよ」

 ちょっと違うような・・・・・と思ったが、黙っておいた。ようやく戻ってきた機嫌を損なわれても困る。

「じゃあ、早速行こうよ」

 タイザーは嬉しそうに笑うと、イツキの服をぐいぐい引っ張った。

「やめろって・・・・・・」

 タイザーに会ってからというものの、彼女がいろいろな箇所をひっぱるのでイツキの服は彼を表すようによれよれにくたびれていた。

 あきらめ半分でため息をつくと、二人は足早に進んだ。






 案の定、警備軍は来ていた。その上、ドラッグコントロールらしき人影も見える。

 おかげでタイザーが捕まっていただろう現場も発見できたのだが、状況は苦しい。

 9thでもと思って探したが、残念ながら姿はなく、他のドラッグコントロールらしき人物が指揮をとっていた。

「う〜・・・9thねーちゃんいないよお・・・」

 タイザーは泣きそうになりながら、警備軍をにらんだ。警備軍たちは次々とビニールに包まれた遺体を運び、いろいろと検証しているところだった。発覚したのは今朝方なのか、撤退しそうにない。

「・・・違いないな・・・マルアスだ」

 銃の走った痕跡を見て、警備軍たちは頷く。イツキは改めて、昨夜恐ろしいことが起こったのだと実感できた。そう考えるとタイザーは強者だと感心してしまうが、それはとりあえず置いておかなければいけない。こっそり影に隠れ、じっとその場を観察する。

「派手にやったようだな、あいつ」
「うん・・・・・」
「ま、サブマシンガンじゃ当たり前か。・・・・・あ。あれ」

 視界の端に赤いものが映る。警備軍の手の中に、それはあった。

「あれ、お前のマントじゃねえか?」
「え?」

 タイザーもこっそり盗み見る。

「本当だ!僕のマントだよ・・・・・どうしよ・・・どっか持ってくのかなあ・・・・」

 警備軍たちは小さな赤いマントを見て首をかしげている。このまま何事もなくその場に放り出してくれれば、イツキたちはこっそり拾えるのだが中身を探られたら最後、持って行かれるだろう。なぜこんなものがあるか謎だろうが、一応証拠の品なのだ。それに、あの中にはルガーP90という暴れ馬が二匹いるのだから。没収間違いなし。

 タイザーは唾を飲み込み、「捨てろ〜捨てろ〜」と小声で念じたが、しかしやはり警備軍、ごそごそとマントを裏返し始めた。

「ルガーが見つかっちゃうよ!!どうしよう・・・」

 タイザーはスカートの端を握り締め、おろおろとその場に足踏みする。さすがのおてんば娘もピストルがなければ暴走しないらしい。

 イツキは困り果てるタイザーを見て少し笑った。すぐさまそれに気づき、タイザーはこれでもかと頬を膨らました。

「いっきー!!笑ってる場合じゃないでしょっ。しかも何で笑ったの!?」
「悪りい悪りい、つい・・・」
「ついって何!?」
「いや、まあ内緒。・・・ええと、しょうがねーな・・・・・今からどうにかしてやるよ」

 とたんにタイザーの表情がぱっと明るくなった。

「え!本当?」
「その代わり、女連れ込みOKな」
「はあ?!」
「最近恋しくて恋しくて・・・つーことだから、よろしく〜」

 軽く手をひらひら振ると、反対の手を懐に入れた。太陽に反射しないよう、ナイフをそっと指に絡める。

 そしてそのまま、警備兵のいる前・・・ではなく、まったく見当違いの左方面にナイフを投げつける。遠くですこん、と間抜けな音がした。

「・・・・・・・・・」

 その動作をじっくり見ていたはずのタイザーだったが、まるで見えない。見えなかった。イツキの手が残像のようにブレた。幻覚でも見せられたようだ。

「・・・・いっきー・・・・って、なんなの・・・・?」

 唖然とその光景を見るしかできない。銃はノーコンだということはよくわかっているが、ナイフの腕はいまいちわからない。確かにナイフだと多少デザートシーブスと戦えるが、主に戦闘しているのはタイザーだ。今だにイツキの実力はわからないが、この光景を見てますますわからなくなった。実は強いのかもしれない、と思考がよぎった瞬間だった。


「ひい!」


 イツキがナイフを投げた方から悲鳴が漏れた。


「きゃああ!!!」


 女は金切り声を上げ、その場にしゃがみこもうとするがナイフに邪魔をされて動けないでいた。間違いない、イツキのナイフだ。

 ナイフは女の服、膨らみのある肩に刺さっていた。肩がふっくらしたデザインらしく、女に刺さってはいなかった。それでも悲鳴は止まらず、辺りの人達も困惑した。騒ぎは一味がいた家から女に集った。

「何事だ!!」

 警備軍やドラッグコントロールもは慌てて声の方へ向かった。もくろみ通りだ。

「早くしろ!」

 赤いマントを持っていた警備軍も、マントを置いて慌てて駆け寄った。

「もーらいっと」

 それを難なくあっさり取り上げ、イツキは飄々といつも通りだらけた歩き方で戻ってきた。

「ほらよ」

 投げつけると、がしゃ、とルガーが二丁出てきた。

「よかった・・・・・・無事・・・・・」

 ほっと息をついてマントを抱きしめる。これがぬいぐるみだったらかわいいものの、腕の中は生憎とピストル。なぜここまで執着するかわからないが、とりあえずめでたしめでたしで終わってよかったとイツキは安堵の息をこっそりついた。

「ありがと、いっきー」
「どういたしまして」
「でも、どうやったの?」
「は?」

 イツキは眉間にしわを寄せる。

「見てただろ?」
「見えなかったもん」
「・・・・まんまだよ、まんま。ナイフをちょっと投げて、警備軍の目をあっちに向けた。ただそんだけ」
「・・・・どうしてそんなことできるの?」
「ん〜・・・兄貴がナイフ使うの得意で、教わった」
「・・・・・・・・・・」

 タイザーは少し不審な目でじろじろ、イツキを下から上に眺めた。あまり納得してない様子で目を反らし、少しむっと頬を膨らめた。

「普段もそうやって戦ってくれればいいのに・・・・」
「まあ、そう言うなよ。・・・んで。金は?」
「この通り」

 じゃら、とピンクの巾着が重そうに出てくる。中身は取られていないようで、さらにほっと息を漏らした。

「じゃ、その金で払ってもらおうか。今すぐ行こうぜ。朝食がてら」
「え〜朝からやってるのー?」
「さあ?」

 結局ナイフのことはばれず、二人はその足で昨日訪れたバーに向かった。





 バーはやっていて、マスターが店内で一人ぽつんと、街から孤立した哀愁を漂わせながらグラスを拭いていた。朝でも夜の雰囲気が漂う。

 乾いた鈴の音が響くと、マスターは顔を上げた。客がイツキだと知ると、マスターは目を細めた。

「よお。金、もって来たぞ」

 じゃら、とカウンターに金が置かれる。マスターは頷くと、棚に手を伸ばした。

「では、こちらを」
「え?」

 タイザーは目を点にした。思わずカウンターに釘付けになる。

「いっきー・・・・・これ」
「おお。俺が必ず持ってくるよーという保険をかけておいたんだ」
「でも・・・・これ・・・・いっきー、タカラモノでしょ?」
「そうだけど?」

 タイザーはイツキの手で遊ばれるルガーブラックホークを見つめた。大切にしていたはずのピストル。それを担保に出していたというのか。
 ピストルは嬉しそうに黒く光、イツキの懐へ戻った。

「さ、朝食食おうか」
「・・・・・そだね」

 しばらくして店内が明るくなった。


 太陽は高く、今日も鮮やかに晴れる。青い鳥のような空を浮かべて。





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