4・シーフラフネス

 盗賊を狩る盗賊。
 世間ではそう言われてる。
 悪いイメージだけど、しょうがない。
 だって、シーフラフネスはデザートシーヴスから金を巻き上げて、首を捧げて生計を立てる。

 どうにかなるなんて思ってない。

 僕は一人。

 だから欲しいんだ、ブルーヘブン。

 君の正体は?




          Heaven?


 イツキはあきれながらタイザーを遠目で見る。煙草の灰が風に乗って砂と共に砕け散った。

「・・・・・・・・」

 煙のため息。甘い匂いだけがくすぶり、何も言わずに消えていく。

 そんな中、茶色い髪をぴょこぴょこ揺らし、砂の上だというのに元気よく跳ねる少女がいた。

「きゃ〜!こいつ、お金持ちだね!」

 イツキと少し離れた場所でタイザーの嬉々とした甲高い声が上がった。砂漠の黄色い砂がイツキとタイザーの髪をなでる。タイザーは笑い、ちゃりちゃりと重そうな金貨の音を立てながらイツキの側に戻った。彼は黙って甘い煙彼女を迎える。

 タイザーは頬を高揚とさせると、両手を捧げた。その中には、黄色い砂よりも遥かに輝く金貨が詰まっていた。

「ほらほら」

 揺れるたびに喜々と金貨は鳴り響く。

「ほら〜!」

 両手一杯に金貨に、タイザーの頬はピンク色に輝いた。

「へへ」

 そんな彼女とは正反対に、イツキはしけた顔をして煙草を吸い続けた。口から離しても何も言わず、ただ煙草の灰を落とし、再びくわえてはタイザーを見る、を繰り返した。

「・・・・・・あのなあ・・・」

 ようやく口を開いたのは、煙草がフィルター付近に近づいたときだった。それまでタイザーはひたすら金貨に笑みを向けていた。

「ん?」

 呼ばれてもイツキを見ず、ようやく金貨を懐にしまいながら返事をする。イツキは煙草を捨てて、砂まみれになった髪をかき回した。

「・・・・・・本っ当に探す気あるのか?」
「もちろん。あ、ちゃんと今日は聞いたよ。鳥知らないって」
「へえ・・・・・」
「あ、なんだよその目!ちゃんと聞いたよ!この垂れ目」
「うるせえ!垂れ目は余計だっ」

 どうやら気にしているらしく、少し頬を膨らませる。それに目ざとく気づいたタイザーは少しにやけると、丸い瞳でイツキを覗き込む。

「やーい、ムキになってる〜」
「うるさいぞ!」
「あははは!」

 高らかに笑いながらイツキを通り過ぎ、元来た道をまた進む。

「笑うな!・・・・じゃない!俺が言いたいのはなあ・・・」
「なんだよ」
「いちいち、デザートシーブスを見つける度にやっつけに行こうとするなっ」
「・・・・・いっきー。僕はシーフラフネスだよ?やっつけるのが仕事なんだから。遊び人に言われたくないね」

 横目でちらりとイツキを見て、鼻でため息をする。明らかに小馬鹿にしている目のタイザーに怒りをおぼえ、こめかみが引きつるのを感じつつも、イツキはなるべくどならないように落ち着く。子供相手に叱ってもしかたがない。

「・・・・・わかった・・・まあ、やっつけるのはいい・・・。でもなあ」

 目線の先の砂漠がだんだん薄くなり、コンクリートの道になっていく。砂に埋もれたバニーガールの看板が二人を手招く。

『ようこそ!ザリアルの街へ!』

 看板の後ろは砂漠がほとんどなく、素朴な街並みが続いている。久々に見る砂漠以外の光景だ。

 イツキはこめかみのあたりをとん、と叩くと息を吸い込んだ。欝憤という名の空気が胸を満たしていき―

「折角街についたというのに飛び出て、やっつけに行こうとするな!」
「へ?どゆこと?」
「だからな」

 まだ痙攣するこめかみを指でとんとん押さえながら落ち着かせる。

「俺たちは長い砂漠生活で疲れている。さあ街に着きました。これから宿取ってバーにでも行って、休もうか・・・・っていうときにだ!お前は歌いながらわざわざ、まだ悪さもしていない遠くの敵を倒そうと飛び出て行った!しかも俺まで借り出して・・・・・」
「そんなこと?」

 あっけらかんとした顔に声。悪かったなどという感情は何一つなく、むしろそんな感情は生まれてこの方持ったことがないと言わんばかりのあっさり具合だ。

 思わずプツン、と何かが切れた。

 そんな彼に気づいていないタイザーは、からからと笑いながら続ける。

「いいじゃんいいじゃん。仕事熱心ということにして。いっきーもいい射撃練習になるよ?ノーコンだし」
「ノーコン言うな!俺は銃器専門じゃねえんだよっ」

 そしてもう一本、プチンと切れる。

「そなの?」

 タイザーの大きな瞳が音を立ててぱちくりと瞬きをする。ここまで無邪気にされると、むしろ喧嘩を売っているようにしか思えなくなってくる。

「じゃあなんでそんな銃使ってるんだよー」

 それなのにタイザーは気付かず続けてくれる。どこまでも純粋に文句を言う姿勢に、イツキの神経は切れに切れ・・ついには同情に似た呆れに変換された。脳内はすっかり疲れ切り、怒りどころか文句すら浮かばない。

 言葉の代わりにため息をつき、「いいだろ、別に・・・・・」と肩を落とした。それに対しても、タイザーは文句を付けた。

「よくないよ!銃がかわいそう!使ってあげないと腐るよ」
「どこの知識だよ・・・・」

 猫背の背中を余計に丸める。そっと懐に手を入れると、冷たいピストルがイツキの手を取った。

「・・・・・・・・・」

 ルガーブラックホーク。イツキの愛銃として懐に常に待機している。滑らかなグリップ。

 いつまでもイツキを捕らえて放さないように、静かにイツキに埋もれている。

 ブルーヘブンのように。青い鳥が見せる記憶のように。そして、甘い甘い彼女のように・・・。

「・・・・・いっきー?」
「ん?ああ」

 手を放すと、代わりに煙草の箱を取った。

「なんだかにやにやしてたけど?」
「気のせいだろ」

 とん、と箱を浮かせて一本くわえる。

「あ!」

 タイザーの叫びにがくん、と考えるより早く肩が落ちた。

「おいおい。今度は・・・・・?」

 嬉しそうなピストルの音。おどけた鼻歌。

「・・・・・・まさか」
「とらえろ、タイザー!」

 歌は終盤を奏でていた。


 イツキは最近覚えたことがある。そして今回、怒りを覚えたこと。

 彼女が歌いだしたら、近くにデザートシーブスがいる証拠。・・・近くと言わず、半径500メートル付近には必ずいる。どんなに遠くてもタイザーは素早く、捕らえに行く。

 まあ、これだけならよかった。悪いことに、

「やめろ!俺はもう疲れてるんだ〜!」

 イツキのすそを引っ張っていく。子供とは思えない力で、ぐっと握り締めて服を伸ばす。

「の、伸びる!伸びる!俺の一張羅が〜!」
「しゃらっぷ!」

 叫びながらイツキを引きずっていく。ひょろひょろの体は止まることなく、タイザーの細腕に引っ張られていくから情けない。踏ん張っても踏ん張っても、タイザーは嬉々として彼を連れて行こうとする。

「いいからいいから!」
「よくねえ!」

 ぐっと数度目かの踏ん張り。それでもイツキの体は止まらない。

「じゃーこうしよう!」

 引きずりながらタイザーはピストルを空に掲げた。

「これから、僕がいっきーの分までお金払ってあげる!それならいいでしょ、遊び人!」
「よく・・・・・・・」

 思わず躊躇。

 懐に眠っている路銀はもうわずかだ。というより、そもそも金というものは懐に納めず、煙草と酒と女に返還してしまう。

「ぐ・・・・・・」

 ぐらんぐらんと心が揺れる。言葉を飲み込むしかなかった。

「さらに煙草もつけちゃう!」
「ち・・・・・・」

 イツキは思わず泣きそうになった。何という魅惑的なトドメだ。

「畜生・・・・!」

 こんな子供に。こんなガキに・・・!

 イツキはかみ締めるしかない。

「畜生〜!わかったよ!ついていきゃあいいんだろ!」
「その通り!」

 タイザーが手を放してもイツキはついてくる。首輪がなくてもついてくるペットのように、よれよれと。

 タイザーは嬉しそうに笑った。盗賊を見つけたときよりも、倒したときよりも。

「何笑ってるんだ?」
「お金万歳っと思ってね」

 くすくすと悪戯小僧のように笑い声を上げる。

「なんじゃそりゃ」
「へへ・・・いいのいいの!さあ、行くよ!」

 そして吼える。

 鉛色した銃弾はタイザーを、イツキの心を映し出す。隠された悲鳴を押し込みながら、強く解き放たれる。







 僕は君を追いかけるよ、ブルーヘブン。

 僕はブルーヘブン、招待を受けたんだ。


 ・・・いらないかもしれないなんて思うのはうんと後だけど。


 ブルーヘブン。


 君を追いかけるのは、きっと僕じゃない。


「タイザー!」
「まかせて!」

 今日も僕は狩る。


 だって僕はシーフラフネス。

 どうにかなるなんて思ってない。

 ただ、これが僕の職業だから。

 君のくれた、僕の選んだ道だから。

 僕はとても寂しくて、でも一人じゃなくなった。


 僕の願いは、叶っている。





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