9・Battlefield on sand ブルーヘブン。 青い鳥。 とろけてしまいそうなほど、青く、青く、透き通った天国。 全てを集め、何をたくらむ? ヘブン。 そこに答えがあるというなら。 いや、そこに答えがあるからこそ俺たちは求める。 天国目指し。 ブルーヘブン。あんたはその案内役でしかないだろう? Heaven? 道なき道を磁石一つ頼りに車は動く。随分粗悪なエンジンだ。ガソリンの匂いが車内に充満する。照りつける太陽もあってか、胸やけを起こすほど臭い。窓を開けているが、イツキとタイザーが座る後部座席まで風は通らない。加えて、固いシートに不安定な道筋。動くたびに尻を打たれ、腰までも痛くなってくる。 せめて自由に動けたら・・・イツキはため息をついて頭を後ろに倒した。がたん、と再び激しく揺れて頭を打った・・・何もかも最悪だ。 「9thのねーさん。この鎖、解いてくんねえかなあ?」 「・・・・・・・」 「やれやれ」 後ろを見るそぶりすらない。 イツキとタイザーはあっけなく捕まった。もちろん、情報屋である男も。そして他に見つかった男たちも。情報屋も含め見つかった人々はすでに症状が出ているため、重厚な護送車に乗せられたが、イツキとタイザーは9thが乗る他の車に乗らされた。まだ症状がなかったため、重要参考人という形で車に乗せられたのだが・・・厳重にも手にぐるぐると鎖を巻かれた状態で後ろに座らされている。捕まった中毒者と同じ扱いだ。 まるでブルーヘブンと彼らを繋ぐ嫌味な運命のように、がんじがらめに巻かれた鎖を眺め、イツキは思わず目を瞑った。 なぜ薬の名前が「ブルーヘブン」なのだろうか。数ある単語の中、どうしてソレだったのか。すぐに出てくるものでもないし、創作して付けたにしても・・・ソレがつけられる可能性は低い。 なら、やはり関係者か。イツキは肩にもたれかかるタイザーの頭を眺め、少し体を動かしてみた。 「タイザー、起きてるかー」 大分揺さぶってみたが、反応はない。ここまでの道のりで彼女は一度も体を動かさなかった。イツキの額にうっすらと汗がにじむ。 「おいおい。早く目覚めるって言ったのはどこのどいつだよ?」 9thに訴えるように言ってみたが、二人とも反応は返ってこなかった。なんだか寂しい気持ちになる。 そんなイツキをよそに、タイザーは気持ちよさそうに眠っている。まだ幼い彼女は、寝ていると本当に愛らしい。見るもの全てを癒してくれるようなかわいさが溢れている。顔色もいいので、このまま息を失うということはなさそうだ。 「・・・・はあ」 いいきなもんだぜ、とタイザーを羨ましく思った。 二人の乗る護送車は小さい。元より9thと運転手だけ乗る予定だったのだろう。運転手、隣の助手席に9th、そして後ろにイツキとタイザーの二人。四人乗っただけでぎゅうぎゅうだった。鎖のせいか、さらに車内は苦しく感じられた。イツキは気を紛らわそうと、顔を上げた。 「・・・・・9thよお・・・・・なんであんた、そんなに中毒者を捕まえようとするんだ?この世の中、そういったやつなんて五万といるけど?」 「・・・・・・・・」 9thは一言もしゃべらない。最後に聞いたのは「捕まえて」ただそれだけだ。どんなにイツキが吠えようと訴えようと、命令する声ばかりで会話にならない。 「本格的に嫌われたわけだ。・・・おーい運転手。どこにいくんだー?」 もちろん運転手もしゃべらない。運転手とはいえ、ドラッグコントロールに席を置いている人間、こういった状況に慣れている。いくら何かしゃべろうとしても反応を返さない規則でもあるのだろう。イツキはつまらなそうに舌打ちし、硬いシートに寄りかかった。がたん、と揺れて三度頭を打った。 「煙草吸いたーい」 車内は静かだ。細かくゆれる車体と、回転の悪そうなエンジン音、そして砂嵐のみがささやきあう。 「酒飲みたーい。女とや」 「うるさいわよ」 いい加減、痺れを切らしたようだ。9thはようやく口を開いたが後ろを振り返ろうとしない。ミラー越しに灰色の瞳をくれるだけで、そこに感情は一切ない。それでもイツキはお、と嬉しそうに口の端を吊り上げた。 「よお、ようやくしゃべったな」 「うるさいからよ」 「しょーがねえだろ。暇なんだ」 だだをこねる子供のように鎖をじゃりじゃりと鳴らす。 「・・・・なあ、俺やこのガキを捕まえて楽しいか?」 「さあ?」 「楽しくないんだったら捕まえるなよ」 「あら。楽しかったら捕まえていいわけ?生憎、そういうプレイ趣味はないわ」 イツキは苦笑いを浮かべたまま何も言えず肩をすくめた。鎖がじゃりっと微かに鳴る。 砂塵が窓から入り、車内は少し煙っぽく視界が濁った。それでも9thは動じず、ぼんやりと外を眺める。遠くを見る瞳は何を映しているのかわからなかったが、焦点が合わなくても彼女に隙はない。 数秒の間を置き、9thはぽつりとつぶやいた。 「・・・・・・許せないのよ」 9thは外を見つめたまま、振り返らない。ミラーに映る赤い髪が炎のように揺らめいた。 「薬なんかで逃げようなんて、都合がいいと思わない?たった一打ち、たった一口。ただそれだけで夢を見ようなんて甘いのよ」 「・・・・・・・・・」 「ただ、それだけ」 「やっぱりあんた、辛いよ」 イツキは口の端を吊り上げたまま息を漏らして目を瞑った。 連なる車は荒野をひたすら走る。異様な光景だった。砂嵐が黄色く、むせあがる。毎日眺めているはずなのに、なぜこうも違うのだろう。答えは出てこない。彼女が何を思っているかわからないように、自分がブルーヘブンを追い求める理由のように・・・答えという答えは砂に埋もれているような気がした。 「・・・・・ん・・・」 道は大分悪いらしく、がたがたと何度も激しく揺れた。さすがにタイザーももぞもぞと体を動かした。 「お、タイザー。起きたか」 タイザーはとろんとしたまぶたをイツキに向ける。いまいち起ききっていない。自分が今どんな状況で、どこにいるのかすらわかっていないだろう。小さな頭をイツキの肩にこすりつけ、何度も唸りを上げた。 「む・・・・・」 手が上がり、目をこすろうとして鎖が鳴った。それでも器用に目をこする。イツキの頬が無意識のうちに引き攣った。 「まだ気づいてないのか・・・・?」 イツキはあきれてタイザーを見るが、彼女は気にせずぼーっと前を見る。 ふいにタイザーが微笑んだ。半眼のまま。 「♪ねずみがにわに」 イツキはぎょっとしてタイザーを見た。それでも彼女は続ける。嬉しそうに。 「♪とらえろタイザー。めうしがはたけに、おいだせはやくっ!!」 目が見開く。じゃり、と勢いよく鎖が鳴った。タイザーの意識が完全に覚醒した。 「何?うるさいわよ」 もう一度9thが口を開き、今度こそイツキを見た。ようやく見れた9thの顔だが、それどころではない。タイザーは激しく鎖を揺らし、歯を食いしばっている。どんな状況であろうと、彼女の野生の勘は憎き敵に反応する。 「おい・・・気をつけろ」 「??」 「タイザーが歌いだした・・・・」 「だから?」 「こいつはな、シーフラフネスで・・・・・・」 「うわああああ!?」 ハンドルが急回転、車体が大きくぶれ、砂嵐が窓から入り込み・・・・・豪快な音とともに車はそのまま滑るように転がって反転、中にいたイツキたち共々砂にめり込んだ。 自分の頭を打ち付けた音を最後に、イツキたちの意識はスイッチを切るよりも簡単に暗い意識へと落ちていった。 「う・・・・・くそ・・・」 意識のない暗中は一瞬にして終わる。目の前に走る赤と黄色の閃光に耐えきれず、イツキは無理やり目を開けて体を起こした。車と一緒にぺっしゃんこ・・・その事態は免れたので安堵して立ち上がることができた。 口に入った砂をぺっと吐き出し、イツキはゆっくり辺りを見回した。ドアから放り出されたおかげで、イツキは砂のクッションで無傷だった。ただし、鎖はまだ繋がったまま。ここまで頑丈にしなくてもいいじゃないかと思うが、今はそれどころではない。 「おーい、タイザー・・・・」 黄色く吹き上がるあたりに、人影は見えない。横転する車。 砂、砂、砂。 空すら見えない。 まるで全てに取り残されたように、イツキは呆然とその場に立っている。 そのまま砂に沈みそうなほど体が重かった。 イツキは首を振り、思考を振り払った。今は考えるよりもやることがある。 「・・・・・おい、誰か。・・9th!」 「うるさいなー」 言ったのはタイザーだった。 彼女は意外に平然とした様子でイツキの側に駆け寄った。見る限りでは無傷で・・・ただし顔は頬をぱんぱんに膨らまし、かわいい目を三角に尖らせていた。 「どういうことだよ、これ!何しようとしてたの!?」 「は・・・・?あ・・・・ああ」 タイザーは鎖を掲げてじゃりじゃり振り回す。束縛された状態にしてはソレ事態に慌ててはいない。それ以上に怒りを感じているようだ。イツキは「いろいろな意味を含めて、余裕だな・・」と改めて小さな相棒を尊敬した。 「俺も同じなんだけど・・・・」 「そんなことよりも、デザートシーブスの匂いがする・・・・」 鎖のことを「そんなこと」で放り捨て、うさぎのように鼻をひくひく動かした。イツキはその匂いがわからなかったが、なんとなく殺意のようなものは感じ取っていた。気配という点に関して、イツキは人よりも優れていると自覚している。それもそのはず、イツキの姉にみっちりとしこまれたのだから。 イツキは姉の影を急いで振り払い、もう一度辺りを見回した。黄色い煙幕が続いている。 「・・・・9th!おい、ねーちゃ・・・・お」 強い風が吹き、砂の幕が晴れた。 それこそ平然と、9thは腕を組んでえらそうに立っていた。 目の前には小汚い男たち―デザートシーブス。タイザーの「歌」による警告は正解だった。 イツキとタイザーは素早く砂山に隠れると、息を潜めて集団を見つめた。かなりの人数がいるが、みなぼろぼろの銃を9thに向けている。一見すると9thに勝算はない。 「・・・・・なかなか大きい集団みたいだね・・・・」 タイザーの大きな目がセンサーのようにあたりを把握する。普段は年齢よりも子供っぽいが、デザートシーブスを目の前にすると大人以上に頼もしくなる。恐怖や苛立ちはなく、冷静で適度な緊張が心地よく走っている。 イツキも辺りを見回してみた。あと一台、同じように横転した車があったが監視用の後方車だった。薬中毒である人々が乗った車は無事通過していった。ドラッグコントロールとして、大きな被害はなかったと言える。だがその考えを抜かせば、絶体絶命な事態だ。結局は多勢に無勢、どこまで乗りきれるかわからない。 「僕たち以外の車を逃したのはだめだけど、結構いい感じの盗賊だね。人数もしっかりいるし、銃の扱いも慣れてそう・・・殺気も十分あるから、大分手こずりそうだね」 幼い娘とは思えぬ妖艶な笑みを浮かべ、殺気を放つ。 「いっきー鎖ほどいて」 「俺もほどきたいんだけど・・・おお」 イツキは嬉しそうに砂を泳ぎ、横転した車の側に駆け寄った・・・のを合図に銃声が響いた。 「おおう!?」 急いで身を低くし、それでも急いで車に行く。 横転した車の側に倒れる運転手・・・・きっとこいつも鍵を持っているだろうと勝手に確証し、さらに車内には取り上げられた銃があると信じて、デザートシーブスたちに見つからないように扉をこじ開けた。鎖でうまく動かないものの、指先や体全体を使えばなんとかなりそうだ。タイザーも可能性を信じ、駆け寄った。 「おとなしく俺たちに金よこしな」 「生憎だけど。ここにあるのは金じゃなくて囚人たちよ」 下卑た笑いを浮かべる男たちをふてぶてしく9thは見下ろす。「支配者」のような威圧感で相手を踏みつけると、男たちはさらに嬉しそうに笑い声を上げた。 「丸腰の女に、何ができる?」 ふん、と9thは嘲笑する。つなぎの下に武器らしいものは見えず、あったとしても男たちが先に引き金を引くだろう。それは9thもよくわかっている。その「理解」が男たちの頭に油断を生むことも・・・もちろん了解している。 あまりにも陳腐な思考回路に9thは失笑した。 「何を見ているの?」 9thの姿が消えた。夢の縁に立たされたような浮遊感に男たちは襲われた。蜃気楼か、それとも陽炎か・・・何かにばかされたように思ってしまうほど、9thの姿は見事消えていなくなっている。 男たちは一気に気配をばらし、ぐちゃぐちゃにこんがらがっていく思考に慌てた。一人は右を、一人は左を、一人はぐるりと一蹴見回す。 荒野があり、時々サボテンがあり、砂があり、空が、暗く・・・・ 視野がふさがる。 「?!」 自分の位置とは違う銃声。痛みはない。それが命取りになった。視野を9thの鮮やかな手によってふさがれた男はそのまま砂に埋もれた。女のものとは思えぬ圧力と動揺で力が抜けきり、情けなく熱い砂に体を埋める。あまりに理解しがたいスピードに脳はついていけなかったのだろう、そのままスイッチは切られた。 9thは短い髪を振り乱し、銃声のする方へと目を光らせた。 男は唐突に埋もれた仲間にやはり理解ができず、的もないところに銃弾を飛ばした。虚しく空に四散し、代わりに砂粒が舞い上がった。一気に黄色い膜が広がり、男は声もなく慌てふためいた。次に砂に埋もれるのは自分だろう・・・スイッチは切られた・・・彼は運がよかった。意識が消えると同時に9thの鞭のような足が見事みぞおちにヒットしたのだから。痛みはおそらくなかっただろう。 次は・・・9thは自分に状況を伝える。 残された男は銃を持ったまま、気配を巡らせた。仲間が次々と沈黙する中、彼はまだ冷静さを保って立っていられた。しかしよく見ると膝が笑っている。次は自分の番か・・そう思ってしまった瞬間に震えが来てしまったのだ。 また一人倒れた。急いで振り返るが、もういない。 「あ・・・・」声はそこで途切れた。男は不自然な首の角度をして倒れた。最後に見たのはさわやかに晴れた青空。青空が一面、足元に広がった光景が最後だった。 9thは砂のついた手を軽くはたき、デザートシーブスたちを見下ろした。息はあるが、砂が邪魔しているため困難になっている。悶えているが立ち上がることはできない。9thはまだ緊張を解かず、それぞれの足をつかんだ。 「ボーナス、これで増えるかしら?」 三人をずるずる引きずりながら横転した車体に近づく。 「?!」 「お」 「あ」 ちょうどいいタイミングだった。 イツキとタイザーは同じように頬を引きつらせ、自分たちの手の中を見た。車に保管されていたはずのブラックホークとルガーP90、それにナイフ。今はしっかりと持ち主の場所へと帰っていた。それを静かに見下す9thのめらめらと背後がたぎっているのが二人には見えた。 「・・・・・これに乗じて逃げる気?」 「ち、違う・・・・」 「僕はシーフラフネスだもん!捕まえるに決まってるでしょ!」 しっかりとルガーP90を握り締めると、タイザーは果敢に残りの男たちに突進した。 「・・・・というわけだ」実のところ違うのだが。イツキとしては逃げたかった。 「手伝ったところで、免除にはならないわ」 「・・・・ま、それはそれでいいさ」 イツキはにしゃっと笑うとルガーブラックホークにキスをした。 長く突き進む、黒くて重い銃口。イツキは左目を瞑り、そっと男の一人にピントを合わせる。 「いくぜ・・・・・」 静かに一発、重々しいうなり声をあげてルガーブラックホークは悲鳴を上げた。暴走する怪獣のような声に辺りの空気は一気に爆ぜた。それぞれが肩をすくめる中、タイザーだけは動ぜずイツキを激しく睨みつけた。 「ちょっと!いっきーは黙ってて!このノーコンっ」 少し遠くの方でタイザーが叫んだ。叫びたくのもわかる。狙ったはずの男はぴんぴんしている上にタイザーや運転手たちを狙っている。 「おり?」 9thはあきれながら放った方向を見ている。 「そんな銃を持っているくせにコントロール能力ゼロなの?」 「・・・・・銃は何よりも大好きだが、それとこれとは違うらしいな」 イツキは冷や汗を流しながら銃をしまい、決まり悪そうに頭をかいた。 「・・・・まあ、大丈夫だろう。タイザーならいけるさ・・・・」 砂のように乾いた笑い声を上げると。そのまま砂地に腰を下ろした。 「それにあんたらの仲間もまだいるんだろ?」 「いいえ」 9thはけろっと言う。 「デザートシーブスを乗せて帰ってもらったわ」 「・・・・・・・あっそ」 いつの間に、と思ったがイツキはあえて聞かなかった。 「いいわけ?」 くいっと親指をタイザーの方向に向ける。目を凝らして見ると、タイザーは必死に身を隠して弾丸を避けている。それを見て男たちはまるで「小動物を狩る肉食動物」のような目で笑いあう。 激しく叫ぶ銃弾。白い硝煙と黄色い砂が混じりあい、容赦なくタイザーを襲う。攻防戦は一気にタイザーが不利になり、男たちはますます鼻息荒く引き金を絞った。所詮は多勢に無勢・・・それにタイザーという少女が出てきたおかげで、男たちの気持ちにゆとりが生まれたようだ。精神的に回復してしまった彼らを止めることは、タイザーにはできない。 「・・・・・思った以上に・・・やばいな」 「ええ」 それでも二人は呑気に腰を上げる。タイザーの体は守りに徹しているが、表情は決して曇っていない。それどころか喜々と歯を見せて笑っている。その顔につられ、9thも思わず笑みをこぼした。 「ノーコンは黙ってた方がいいんじゃない?」 「そうもいかねえな。それに俺は銃専門じゃねえんだよ」 ナイフを指に挟む。鉛色に、厳しく、艶かしく刃先が笑う。銃は好きだ。特に甘い匂いの染みついたブラックホークは。だが手になじむのはナイフの軽いプラスチックの感触。手の温度に合わせて暖かくなっていく。 9thにもわかった。彼はナイフならできる。 「足引っ張らないで」 「もちろん。あんたこそそのきれーな面をきられないようにしろよ」 不敵に笑い、9thは砂地を風のように切り裂く。その側でイツキも走る。砂塵が再び激しく舞い上がった。黄色いステージの完成だ。 「おい!こっちにもいるぞ!」 銃口が二人を覗く。だが間抜けな音によって焦点がぶれた。 聞きなれない音だった。もちろん、銃はまだ火を噴いていない。 「!?」 ほんの瞬き一つの間の瞬間だったが、男にはそれらが全てはっきり見えた。赤い亀裂が走り、耐えきれないとばかりに膨らみ始める黒い塊はそのままオレンジの光と香ばしい匂いをまき散らし・・・爆発した。銃そのものが、風船のように簡単に爆ぜてしまった。 再び襲う理解しがたい事態に男は慌てたが、傍で見ていた9thは余裕たっぷりに笑みを浮かべた。 「へえ・・・・銃口に果物ナイフを一発で刺すなんて。銃、持つのやめたら?」 9thは言いながら駆け出し、飛び交う弾丸をかいくぐる。彼女の目に映る弾など、子供の遊ぶビー玉にすぎない。全てがコマ送りに見える。 「?!」 男はこれでもかと目を見開いたが、9thの姿はどこにもない。 「下」 鈍くひび割れる音と共に男は倒れた。 「ひょーこわ。あんたがピンヒール履いたら最高の「武器」になれる・・ぜ!」 すこん、とまた男の銃口に突き刺す。 「・・・・・・ずるい!」 しばらく二人に見とれていたタイザーも復活し、器用に二丁を操り、男たちを伏せていく。 「僕も倒すんだから!」 ルガーP90も楽しそうに火を噴く。 男たちは青ざめる。 獣が三匹。 あざ笑う。嬉しそうに。小さきものをいたぶるように。 決して一思いに殺さないようにと、笑っている―・・・・・ 「はい、しゅーりょ!」 小さな手を交差させ、タイザーはすっきりした顔で一息つく。まるで精気でも吸ったように頬がぴちぴちと輝いている。 「なかなかやるわね、ちびちゃん」 「ちびじゃない!タイザーだ!」 「怖い名前」 整ったくちびるに手を添え、9thは軽く笑った。 「イツキ、あなたなかなかいい趣味してるわね」 「そりゃどーも」 二人の会話にタイザーは首を交互に振り、イツキの服を引っ張った。 「ねえねえ、二人は知り合いなの?」 「それなりに」 「まあまあね」 二人は同時に答えて肩をすくめた。 「で、だ?この先どうするんだよ?」 煙草をくわえながらあたりを見回す。 運転手たちが必死になって車を直している。しかし砂に埋まってしまっているため、なかなか動かせないでいる。被害は少ないが、辺りは騒然としていた。砂嵐が追い討ちをかけるようにせめぎあう。 「一応救援は呼んでおいたわ。最悪、車が動かなくてもどうにでもなるわ」 9thは呑気に腕を組んで周りを見渡す。細く甘い煙が流れる。 「いいのかよ。そんなに呑気で」 「どうにかなるわ。・・・・あら」 目を細めて空を仰ぐ。空々しく、うそ臭い青。のっぺりと広がる群青の空は戦いなど素知らぬふりだ。 「・・・何かしらね・・鳥?珍しい・・・・」 「?!」 イツキとタイザー、二人は驚いて空を仰ぐ。 優雅に舞う鳥。 青い鳥。 人間たちを見下す。 歩いておいで。 車なんかに頼らずに。 追いつけないよ、いつまでも。 「北・・・北だよ、いっきー!早くしないと見失っちゃう!」 「あ・・・ああ」 煙草を捨て、イツキは走る。もたつく砂も、すべてけとばして。 「ちょ、待ちなさい!まだ容疑は晴れて・・・・・」 「悪いな」 招待するよ。 待ってるよ。 鳥は笑う。 「9th。「ブルーヘブン」はドラッグじゃない。夢を見せる、俺たちをあざ笑う麻薬のような「鳥」のことだ」 「え・・・?」 空に鳥はもういない。 「いっきー!」 「ああ」 とろける鳥。 全てのものを、望むものたちを招待する― 「ブルーヘブン・・・・一体何なの?」 呆然と立ち尽くす9thには届かない青。 二人は砂塵の奥へと消えて行った。
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