色彩の帝国 序章
色を失う時
| 物語を紡ごう。 色彩を紡ごう。
私は世にこの話を語り継ごう。
そして言うのだ。
この世界は色に満ち溢れ、色彩の恩恵を受けた素晴らしき人々がいた、と。
忘れないように。
私は物語を紡ごう。
まず最初に記すはやはりあの事件からだ。
色彩の世界、名はレイストロ。私の住む、世界。私の親であり子供でもある。そして私自身でもある愛しい世界。
レイストロ歴1140年。
この近年、世界は虫に食われた衣類のようにぽつぽつと黒い点が地上に現れていた。
色彩の女王に守られしこの世界に始めに現れた「死」の兆候だった。
世界の死は女王の死。女王の死は世界の死。
世界は世界が生み出した女王によって保たれていた。女王からあふれ出す色彩で世界は色づいていた。
その色が褪せつつある。
徐々に鮮明だった色はくすみ、抜け落ちて黒い塊と化す。
ぬるま湯に浸るように平和だった人々の心にも徐々に黒いものが現れ始め、大地と同じように色が抜け落ちつつあった。
黒になった大地は腐り、荒廃した。
では人間が黒になった場合は?
まるで何日も餌にありついていない本能むき出しの獣のように、意味もなく暴徒と化す。
そして少し時は過ぎ、レイストロ歴1141年の終わりのことだった。
その頃から黒い大地を「ブラックテューマー(黒い腫瘍)」そして人を「ロットシャドウ(腐った影)」と呼ぶようになっていた。 汚物の塊の腫瘍の土地、そこに住まううな垂れた影。みな、爆破で焼きついた影のように土地にしがみついてじんわりりと時を舐めるように生きていた。人を食らいながら。
色彩の女王は泣いた。
己の死の兆候に。
己の存在に。己の自我に。己の色彩に。
全てに涙した。
それでも女王の死は近づいている。
そしてレイストロ歴1145年。
色彩の女王が、死んだ。
実にあっけない死だった。
彼女は信頼する家臣たちに見守られ、息を引き取った。
誰もが彼女の死に涙した。
家臣たちはもちろん、市民たちも。
女王と世界の死に涙した。
色彩が薄れていく。
女王の薔薇に似た芳香がやんわりと風に流されて消えていく。
空も彼女の死に嘆くように3日3晩黒い雨を流し続けた。
だがこの時、誰も知らない。
歯車が狂っていることを。
じんわりと一個ずつ、確実にずれて軋んでいるのを。
狂いつつある中・・・もしくは狂った中、世界はもう一度産声を上げるだろう。
彼女の放つ咆哮と銃声で。
彼の翡翠色の眼光で。
黒き腫瘍が妬かれていく中、彼女は口だけ笑って見せて彼にこう言う。
「・・・・・お前には選択肢が3つある。3つあることをまず感謝してほしいね。・・・そう、残された道は3つ」
灼熱の赤と灰になる黒が雄たけびを上げながら舞い上がる。
彼女はそれを背負い、さらなる笑みをこぼして人差し指を上げる。
「1つ、大人しくこの私に連行される。2つ、いやいやでもとりあえず連行される。3つ・・・・このまま焼かれて死ぬ。・・・・・さあ、どうする? ・・・・パディ・デュランダ?」
炎を映しこむ翡翠の瞳が鋭く光る。
彼は喉を鳴らし、眉間に皺を寄せて皮肉をたっぷり含んだ笑みを彼女に向けた。立てた中指と共に。
「・・・・くそったれ」
なんて始まり方だろう。
こうして世界は再び色彩を紡ごうと叫ぶ。
どうしようもない、想いと欲望を孕みながら。 |